台湾の寺廟を訪れると、祭壇の前で赤い半月形の木片を両手に持ち、祈ったあと床へ投げる人をよく見かけます。2枚の木片が床に落ちると、その向きを確かめ、拾ってもう一度祈る人もいます。初めて見ると何をしているのか分かりにくい光景ですが、これは神様に質問し、その答えを受け取る台湾の伝統的な習慣です。使われている2枚一組の道具は「筊杯」と呼ばれ、日本では「ポエ」と紹介されることもあります。
台湾の寺廟では、参拝者が願い事をするだけではなく、神様に「この判断でよいでしょうか」「この籤は私に与えられたものでしょうか」と尋ねる文化が今も生活の中に残っています。その際に使われるのがポエです。台北、台中、台南、高雄、地方の小さな町まで、多くの寺廟で目にするため、意味を知っておくと台湾旅行で寺廟を訪れたときの見方が大きく変わると思います。

ポエとは何か
ポエは、2枚一組になった三日月形の占具です。中国語では「筊杯」と書き、台湾の民間信仰では神様の意思を尋ねるために古くから使われてきました。台湾語では「筶」や「杯」にあたる語がPoe、Pueに近い音で発音され、2枚を投げて神意を尋ねる行為は「跋桮」と呼ばれます。台湾の寺廟で赤い木片を見て「これは何だろう」と思った人が検索する「ポエ」という呼び名は、こうした台湾語の発音から来ています。
1枚のポエには平らな面と丸く膨らんだ面があり、2枚を一緒に投げたときの組み合わせによって答えを読み取ります。現在よく見かけるものは赤く塗られた木製ですが、古くは貝殻を用いた記録があり、その後は竹の根や木が広く使われるようになりました。竹の地下部分はもともと湾曲しており、それを加工すると三日月形の筊杯になります。現在は木製のほか、寺廟によっては樹脂などで作られたものも見られます。形そのものは単純ですが、台湾では神様と参拝者の間で意思を確かめる道具として長く受け継がれてきたのです。

3つの答えとは?
ポエを投げた結果は、大きく3つに分かれます。もっとも覚えておきたいのが「聖筊」です。2枚のうち1枚が平らな面、もう1枚が丸い面を上にして止まった状態で、神様が質問を受け入れた、あるいは「はい」と答えたものとして受け取られます。台湾の寺廟で参拝者がポエを投げたあと、納得した様子で拾って参拝を終える場面がありますが、この聖筊が出た場合が多いでしょう。
2枚とも平らな面を上にした場合は「笑筊」と呼ばれます。名前の通り神様が笑っている状態とされ、質問が明確ではない、まだ答えを示していない、もう一度尋ねてよい、といった意味で受け取られます。2枚とも丸い面が上を向いた場合は「陰筊」や「無筊」などと呼ばれ、その質問について神様が認めていないという答えになります。呼び方には地域や寺廟による違いがありますが、旅行者なら「片方ずつ異なる面が聖筊、両方が同じ面なら別の答え」と覚えておけば十分でしょう。台湾では平らな面と丸い面を陰・陽のどちらと呼ぶかに違いが見られるため、面の名称より2枚の組み合わせを見るほうが確実です。

ポエの正しい使い方
自分でもポエを使ってみたい場合は、いきなり木片を投げるのではなく、まず参拝する神様に自分が誰なのかを伝えます。台湾では、名前、生年月日、住所を心の中で告げ、そのあと尋ねたい内容を伝えるのが一般的です。住所は神様が質問者を特定するために伝えるものと考えられています。そのうえで2枚のポエを両手で持ち、質問をひとつに絞ってから床へ投じます。台湾の人が祭壇の前で長い時間ポエを手にしたまま祈っているのは、自分のことと質問内容を神様に伝えているためなのです。
質問は「はい」「いいえ」で答えられる内容にします。「仕事についてどうすればいいですか」のように答えがいくつも考えられる質問では、ポエの3種類の結果だけでは神意を受け取れません。「この仕事を続けてもよいでしょうか」のように、一度の質問でひとつの判断を尋ねます。聖筊が出れば肯定、陰筊なら否定として受け取り、笑筊の場合は質問を言い直してもう一度尋ねることがあります。大事な願いでは聖筊を複数回求める習慣もありますが、回数や作法は寺廟によって異なります。初めて使う寺廟では、周囲の参拝者の様子を見るか、寺廟の係員に尋ねて、その場所の作法に合わせるのが自然です。

おみくじにも使う
台湾のおみくじ「求籤」でも、ポエは重要な役割を持っています。籤筒から番号の付いた籤を引けば、それだけで自分の籤が決まるわけではありません。神様に「この番号の籤が私に与えられたものでしょうか」と改めて尋ね、ポエで確認します。寺廟によって作法は異なりますが、3回続けて聖筊が出て初めて、その番号の籤詩を受け取る方法が広く知られています。聖筊がそろわなければ、再び籤を引き、神様に確認します。
この仕組みを知ってから台湾の寺廟を見ると、籤筒とポエが近い場所に置かれている理由も分かります。日本のおみくじでは、引いた1本をそのまま自分への言葉として読むことが多いのに対し、台湾では「その籤を本当に神様が選んだのか」をもう一段階確認する文化があります。番号を偶然引いただけでは終わらず、筊杯を通して神様の同意を得るところまでが求籤なのです。大きな寺廟では籤詩を受け取ったあと、その内容を説明してくれる場所が設けられていることもあり、結婚、仕事、健康、家族、将来などについて神様に尋ねる台湾の信仰文化を間近で見ることができます。

台湾の日常に残る文化
ポエは観光客向けに残された昔の習慣ではありません。台湾では現在も寺廟を訪れ、人生の節目や日常の判断について神様に尋ねる人がいます。進学、仕事、結婚、転居、家族のことなど、その内容は身近なものです。祭壇の前で何度もポエを投げている人がいても、遊びで繰り返しているわけではなく、質問を変えたり、神様の意思を確かめたりしています。台湾の寺廟が歴史的建築物であると同時に、現在も人々が日常的に訪れる信仰の場所であることがよく分かる場面です。
台湾旅行で寺廟を訪れた際には、龍や鳳凰の彫刻、屋根の装飾、線香の煙だけでなく、祭壇の前に置かれた赤いポエにも目を向けてみてください。2枚の小さな木片には、聖筊、笑筊、陰筊という3つの答えがあり、参拝者はそこから神様の意思を受け取ります。自分で試す場合も、観光アトラクションとして投げるのではなく、名前や生年月日などを伝え、ひとつの質問をして答えを待つのが台湾で受け継がれている作法です。寺廟で赤い木片を投げる光景の意味が分かると、台湾の寺廟は建築を見る場所だけではなく、人々と神様との関係が今も続いている場所として見えてくると思います。


