台湾の街では、同じ「市場」という名前でも、朝、昼、夜で売られているものも、訪れる人の目的も大きく異なります。旅行者によく知られているのは夜市ですが、台湾の食文化や日常を知るなら、朝市や昼市にも目を向けたいところです。朝市には家庭の食卓を支える生鮮食品と朝食、昼市には買い物の途中で味わう小吃や昼食、夜市には夕食から食後まで楽しめる屋台料理が集まります。
ただし、台湾で朝市、昼市、夜市が全国共通の明確な基準によって分けられているわけではありません。朝から昼過ぎまで営業する市場もあれば、午前の生鮮市場が終わったあとに飲食店だけが営業を続ける場所もあります。夕方から営業する市場は「黄昏市場」と呼ばれ、夜市とは別の役割を担っています。市場名だけで判断せず、営業時間と主な商品を確認すると、その市場が地元の買い物場所なのか、食事を楽しむ場所なのかが見えてきます。台湾旅行で市場を訪れる前に、それぞれの違いを知っておきましょう。

台湾の市場と時間帯
台湾の伝統市場は、野菜、果物、肉、魚、乾物、総菜、日用品などを扱う地域の小売市場です。地元では「菜市場」や「市場仔」と呼ばれることもあり、観光施設というより、近隣に暮らす人が毎日の食材を買う場所として発展してきました。店舗が収まる市場建築の周囲に露店が並ぶことも多く、道路や路地を含めた一帯が市場として認識されている地域もあります。朝だけ営業する店、昼まで続ける店、常設店舗として夕方まで開く店が混在しているため、1つの市場が時間帯によって異なる表情を見せることも珍しくありません。
公的な区分では、朝市、黄昏市場、全日市場、夜市などに分けられています。朝市は午前の買い物、黄昏市場は夕食の食材を求める人、全日市場は朝から夕方までの利用、夜市は夜間の飲食や買い物が主な役割です。一方、日本語で使われる「昼市」は、台湾全土で統一された市場区分ではなく、昼の時間帯まで営業する伝統市場や、昼食向けの店が集まる市場を指す言葉として捉えると分かりやすいでしょう。朝市と昼市の境界は市場によって異なり、午前11時ごろから少しずつ生鮮食品の店が営業を終え、昼食を出す店や常設店舗が残る場所もあります。

朝市は暮らしの台所
台湾の朝市は、早朝から正午前後にかけてにぎわいます。中心となるのは野菜、果物、豚肉、鶏肉、魚介類、豆腐、麺、乾物、漬物など、家庭で調理するための食材です。旬の果物が山積みにされ、魚介類が氷の上に並び、肉や野菜を見ながら店主と客が言葉を交わす光景には、台湾の普段の食生活がそのまま現れています。観光客向けの商品が主役ではなく、近所の人が朝の買い物を済ませる場所なので、台湾の暮らしに触れたい人には朝市が合っています。
朝市のもう1つの楽しみが台湾式朝食です。市場の周囲には、豆漿、蛋餅、焼餅、飯糰、米粉湯、肉粥、麺料理などを扱う店があり、買い物客が食事を済ませてから帰宅する姿も見られます。朝食専門店だけを訪れるのとは異なり、食材を売る店と飲食店が同じ一帯に集まっているため、台湾の食が家庭の料理と外食の両方から成り立っていることが伝わってきます。午前7時から9時ごろは品ぞろえが多く、朝市らしい活気も感じられる時間です。10時を過ぎると営業を終える店が少しずつ増えるため、市場全体を見たい場合は朝食を兼ねて早めに訪れるのがよいでしょう。

昼市は食事の時間
台湾の昼市は、朝市のように全国で定着した呼び名ではありません。朝から営業する伝統市場が昼まで続いている場合や、市場内の飲食店が昼食時にも営業している場合に、日本の旅行者が分かりやすく「昼市」と表現することがあります。市場によっては午前中に生鮮食品の販売が最盛期を迎え、正午が近づくと総菜、麺、スープ、蒸し物、ご飯料理などの店が目立つようになります。朝市から昼市へ完全に切り替わるのではなく、食材の買い物と昼食が重なる時間と考えるのが自然です。
昼の市場では、店の前に置かれた簡素な席で麺やご飯を食べたり、総菜を持ち帰ったりする地元の人が増えます。鶏肉飯、魯肉飯、乾麺、米粉、肉圓、餛飩湯、魚丸湯、潤餅など、市場ごとに長く親しまれてきた料理があり、周辺で働く人の昼食場所にもなっています。夜市の屋台料理と比べると、毎日の食事として食べられている品が多く、量や味付けにも地域の日常が表れます。昼食を目的にするなら11時30分前後に訪れると、生鮮市場の名残と昼の飲食店を一度に見られます。午後になると営業店舗が減る市場もあるため、昼市を夕方の観光先として考えないほうがよいでしょう。

夜市は夜の食堂街
夜市は夕方から深夜にかけて営業し、小吃、飲み物、菓子、衣類、雑貨、遊戯などが集まります。朝市が家庭の食材を買う場所であるのに対し、夜市はその場で食べる料理が中心です。胡椒餅、蚵仔煎、臭豆腐、鹽酥雞、地瓜球、牛肉麺、麺線、葱油餅、豆花、かき氷、果汁など、少量ずつ味わえる料理が並び、複数の店を巡りながら夕食を組み立てられます。寺廟の参拝客を相手に発展した夜市、商店街と一体化した夜市、道路を通行止めにして屋台が並ぶ夜市など、成り立ちも場所ごとに異なります。
夜市は観光客のためだけに開かれているわけではありません。学校や仕事を終えた人が夕食を買い、家族が食事をし、若者が友人と過ごす生活の場でもあります。ただし、観光夜市では食べ歩き向けの料理や土産物が多く、住宅地の夜市では普段の夕食や日用品を扱う店が目立ちます。規模の大きさだけで選ぶのではなく、料理を重視するのか、買い物や街の雰囲気も楽しむのかを決めておくと、訪れる夜市が決まります。夕方の市場である黄昏市場は、総菜や夕食用の生鮮食品を買う場所であり、娯楽性の高い夜市とは役割が異なります。

旅行での楽しみ方
台湾旅行で朝市、昼市、夜市を訪れるなら、同じ日にすべて詰め込む必要はありません。朝市はホテルの朝食を付けず、朝7時から9時ごろに市場周辺で朝食を取る日に組み込みます。昼市は旧市街や寺廟、歴史地区を訪れる日の昼食先として選び、夜市は夕方以降の予定として確保します。台北では地下鉄で訪れられる市場が多く、台南や高雄では歴史地区の散策と伝統市場を組み合わせる行程も考えられます。市場だけを目的地として切り離すより、その地域で長く食べられてきた料理を昼食や夕食として味わうほうが、街との関係が見えてきます。
朝市では生鮮食品と朝食、昼市では総菜と日常の昼食、夜市では小吃と夜の街を楽しむのが基本です。同じ料理でも市場や地域によって具材、味付け、食べ方が異なり、朝に食べる料理と夜に好まれる料理にも違いがあります。台湾旅行で市場を巡る魅力は、食べ物の種類が多いことだけではありません。朝は家庭の台所、昼は地域の食堂、夜は街の食堂街として、時間とともに役割が変わる様子を見られることにあります。夜市だけで終わらせず、朝市で地元の朝食を味わい、昼の市場で普段の料理に触れると、台湾の食文化がより具体的に伝わってくるのです。


